性と生殖の生態学

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性と生殖の生態学

性と生殖の生態学 (Ecology of Sexuality and Reproduction, EcoR) は2025年に誕生した研究領域です。人類はなぜ少子化や「不妊」の増加を経験しているのか?この問いに答えるためには医学的な知識に加えて、性や生殖の実態と関連する社会的・文化的要因を合わせてシステムとして理解することが不可欠です。しかしながら従来の研究諸分野において性に関わることはしばしば巨大なブラックボックスとして無視されてきました。
性と生殖の生態学は性生活を分析の中心に位置付けて、少子化と「不妊」の増加をもたらすシステムの解明を目指します。マクロ(社会)とミクロ(個人)、また社会的要因と生物的要因の相互作用から成るシステムを研究対象とすることで、少子化政策に揺り動かされる個々人のリプロダクティブヘルス・ライツと、その先にあるすべての人々の健康と幸せを実現します。

持続可能な社会の構成・個々人の幸せと健康の達成

持続可能な社会の構成・個々人の幸せと健康の達成

性と生殖の生態学:マクロ(社会/集団)からミクロ(個人)のあらゆるレベルにおいて、社会/文化的・生物/医学的要因が関係しあうシステムの概念図

 

計画研究① 規範と性生活

社会規範と性生活の相互依存関係の解明
 1.57ショックにはじまって、育児の社会化(育児の社会的支援)、結婚・妊娠の社会化(結婚・妊娠の社会的支援)、ヘルスリテラシーの獲得につながる性教育の見直しなどと輪郭を広げてきた日本の少子化対策の規範としての役割、家庭内の規範の再生産の実態、極めて私的なものと扱われる性生活(人々の性と生殖をめぐる考え方や行動の実態)の関係性のなかに少子化を理解し、個人が規範を習得していく過程の把握のもとに性と生殖をめぐる多様な価値観を包摂する社会を探究します。
 具体的には、性と生殖の規範を作り上げるものとしての政策・教育の役割、さらには家庭内での規範の再生産の実態を明らかにします。日本における不妊治療の保険適用をはじめとする妊娠の社会化は、どのような議論や考え方に基づいて実施されるに至り、不妊治療が保険適用されることによって不妊や子どもをもつ・もたないことに関する人々の考え方はどのように変わった/変わるのかといったことを追究するなかに、少子化する社会、人口減少社会との向き合い方を探ります。

 

計画研究②健康と性生活

「不妊」はいかにして増えるのか:性生活に影響を及ぼす生物学的・社会文化的要因
 日本では中国に次いで世界で2番目に多くの不妊治療が行われています。2021年に日本で生まれた赤ちゃんは81万人、同年に全国の医療機関で実施された生殖補助医療の件数は49万件に上りました。また夫婦のうちの4割ほどは不妊について心配したことがあるなど、近年の日本では不妊に対する不安が増大しています。
 医学的な定義によれば、避妊なしの性交渉がありながら妊娠に至らないものを不妊といいますが、性交渉がないために妊娠しない方も「不妊」患者として医療機関を受診されます。これまでの調査研究を踏まえると、日本においてセックスレスが多いことと不妊に対する不安が強いことも、「不妊」の増加の一因であると推測されます。
 本研究では性生活と関連する生物学的(リプロダクティブヘルス、ホルモン)ならびに社会文化的要因(性教育、規範、幸福感)について、量的・質的の両方から分析することによって、「不妊」が増えるシステムの解明を目指します。

 

計画研究③性生活と医療

 日本の不妊症の背景には、晩産化に加えてセックスレスがあります。従来の国の不妊症対策では生殖補助医療へのアクセスを増やすことが中心となってきましたが、自然妊娠を促す予防の仕組を構築し、自然妊娠に近い治療を推進する仕組み作りにも注力していく必要があります。
 本研究では、セックスレスを無視して構築されてきた不妊症対策の中で医師・患者の治療法選択の現状把握(医師・患者アンケート調査)を行い、上積まれた生殖補助医療件数の推定を行います。さらに、公に語られることが忌避されるセックスレスを含めた不妊予防のための保健教育介入を行い、群間でリテラシー、規範、性機能、心理的ストレス、性交渉頻度の変化と妊娠待ち時間を比較します。本研究は治療・予防の両面から新たな不妊症対策の在り方を提案します。

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